環境省の苦情統計が少ないのはなぜ?調査してみた(後編)

環境省の統計が少なすぎる理由を調査してみた

  1位2位3位4位 
年度全体建設作業工場・事業場営業家庭生活その他
2022年20,436件7,736件5,236件1,946件1,399件etc
2021年19,700件7,460件5,473件1,456件1,389件etc
2020年20,804件7,841件5,554件1,911件1,583件etc
2019年15,726件6,062件4,422件1,411件1,131件etc
2018年16,165件6,050件4,610件1,383件968件etc

世の中には、いろいろな数字があります。

そんな中、家庭生活で発生する騒音が、
苦情件数の中で「4位」だったと知りました。

正直、意外でした。

私は、家庭生活で発生する騒音が、
ぶっちぎりの1位だと思っていたからです。

1県あたりに換算すると、
月に2〜3件程度しかありません。

「そんなに少ないわけがない!」

なぜなら、
家庭生活で発生する騒音は、日本で最も多いはず。

だから当然、
苦情件数でも一番多いはずだと思っていました。

この違和感をきっかけに、私は調査を始めました。

調査した方法

調査は意外と簡単でした。

環境省の統計データには、
参照できる元データがちゃんと載っていたのです。

元データは、騒音規制法施行状況調査という資料。


環境省は、
この資料をもとに苦情件数を発表しているようです。

そこで、
この調査表を詳しく見ることにしました。

すると、重要な一行を発見 ↓

  • 令和4年度、地方公共団体が受理した騒音に係る苦情の件数は20,436件でした。

環境省:騒音規制法施行状況調査(令和4年度)

令和4年度は、2022年です。
先ほどの表と、年度・苦情件数が一致しています。

ここで注目すべきなのが、
「地方公共団体が受理した」という表現です。

ところが、
環境省が発表している資料に、記載がありませんでした

※あとで資料をくまなく読み直したところ、
 小さく書いてありました。

そこで、
地方公共団体が受理したとは?
どういう意味なのか、改めて調べることにしました。

地方公共団体が受理した

ここでいう「地方公共団体」とは、
都道府県や市区町村などの役所のことを指します。

つまり、これは
役所が受理した苦情だけを集計した統計です。

ようするに、
役所に相談しても、役所が受理しなければ、
その件数はゼロとして扱われるのです。

少なすぎて不自然だと感じるのは、当然なのです

誤解を招く資料

環境省の公開資料には、
単に「苦情件数」と書かれているだけです。

たとえば以下の資料など↓

こうした表現だけを見ると、一般の人はこう思うはず。

  • 騒音で困った人が相談した件数だよね

しかし実際には、そうではありません。

役所が受理した騒音だけの統計です。

この点が、非常に誤解を招きやすくなっています。

家庭生活の騒音は、ほとんど受理されない

ではなぜ、
家庭生活の騒音は、受理されにくいのでしょうか?

理由は、とてもシンプルです。

家庭生活の騒音には、法律がほとんど存在しないからです。

たとえば

  • 建設作業の騒音には、法律がある。
    →だから、受理されやすい
  • 工場の騒音にも、法律がある。
    →同じく、受理されやすい。
  • 家庭生活の騒音には、法律がほぼない。
    →だから、受理されにくい

法律がないのに、受理すると思いますか?

ただし、
実際に受理されるかどうかは、役所の判断です。

下にまとめた↓

  1位2位3位4位 
  法律がある法律があるほぼない法律がない 
年度全体建設作業工場・事業場営業家庭生活その他
2022年20,436件7,736件5,236件1,946件1,399件etc
2021年19,700件7,460件5,473件1,456件1,389件etc
2020年20,804件7,841件5,554件1,911件1,583件etc
2019年15,726件6,062件4,422件1,411件1,131件etc
2018年16,165件6,050件4,610件1,383件968件etc
  • 法律がない = 受理されない = 統計に入らない

この構造こそが、
家庭生活の騒音に関する数字が少なすぎる理由なのです。

本当の統計は、

  • 受理されたかどうかではなく、本当の苦情件数を教えてほしいのです

そうでなければ、
見えない苦情がずっと放置され続けることになります。